相続財産法人と相続財産管理人について

1.相続財産法人とは、

(イ)相続人の不明
(a)相続が開始しても、相続人の存在が不明であるという場合もあります。
このような場合、相続人を探す必要があると同時に相続人が現れるまでその相続財産を管理し、仮に相続人が現れなければ相続財産を清算し、最終的な帰属を決める必要があります。
そのため、相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人になるものされており、清算の目的のために法人という権利主体が創設されるのです。
相続財産法人には相続財産管理人が選任され、管理人が相続財産の管理や清算、相続人の捜索を行います。
(b)相続財産法人の成立

相続財産法人は、相続人の存在が不明であるときに、特段の手続を要さずに成立します。
戸籍上相続人が存在しない場合であっても、人の身分関係は戸籍の記載によって決められるものではないため、なお相続人が存在する可能性があるといえ、相続人を捜索すると同時に、管理人による清算手続をする必要があります。
一方、相続人が存在する場合には、その相続人が行方不明又は生死不明のときでも相続財産法人は成立せず、この場合の財産管理は、不在者の財産管理又は失踪宣告の規定によります。
(c)相続財産法人の消滅

相続人のあることが明らかになったときは、相続財産法人は遡及的に消滅します。
単に相続人と称する者が現れただけでは不十分であって、その者が相続人であることを立証し、その身分関係が法律上確定したことが必要です。
包括受遺者が現れたときについても、相続財産法人が消滅するとした下級審判例があります (東地判昭30.8.24、下民集6巻8号1668頁)。
消滅の時期については、法律関係を簡明にする見地から、判明した相続人が相続を承認した時と解されていますが、取引安全のため、それまでに管理人が行った行為の効力は妨げられません。
(ロ)相続人の捜索手続
(a)公告
相続人不存在の際に必要とされる公告は3回あり、それぞれ相続人捜索の側面を有しています。
第一回は家庭裁判所のなす相続財産管理人選任の公告、第二回は相続財産管理人のなす相続債権者および受遺者に対する請求申出催告の公告です、第三回は、家庭裁判所が、相続人がいる場合にその権利を主張すべき旨公告を行います。
第一回、第二回の公告によっても、相続人のいることが明らかでないときは、第三回目の公告がなされます。第三回の公告は、特別縁故者への財産分与及び国庫帰属の対象となるべき財産の確定を目的とするものであるため、清算の結果残余財産が全くなくなった場合は、公告は行なわれません。
不明とされた相続人が権利を主張するためには、必ず公告期間内に相続人である旨の申出をする必要があり、期間内に申出を行わない者は失権します。
公告期間内に、相続人と主張するものが現れた場合、家庭裁判所は、相続財産管理人にその旨を通知します。相続人の地位について争いがある場合は、別途訴訟で決することとなります (東京高判昭39.3.30東京高等裁判所民事判決時報15巻3号69頁)。

(b)公告期間の満了

公告期間内に相続権の主張がない場合は、相続人の不存在が確定します。
一方で、この期間内に相続権の主張がなされれば、訴訟で相続人の資格について争われている間に公告期間が満了したとしても相続人の不存在は確定しません。
ただし、相続権を主張した者が訴訟でその資格を争っている場合でも、その者以外の相続について相続権の申出期間が延長されるわけではありません (最判昭56.10.20民集35巻7号1243頁)。

2.相続財産管理人とは、

(a)選任手続

相続人の存在が不明な場合、相続財産法人が成立し、家庭裁判所は、原則として法人の代表者となる相続財産管理人を選任することになります。
ただし、相続人不存在手続は、相続人の不存在の場合の相続関係の処理を目的としますから、相続財産も解決すべき法律問題も全くない場合には、相続人不存在手続をとる必要はありません。
管理人選任の申立権者は、利害関係人又は検察官です。
利害関係人とは、相続債権者、特定受遺者、相続債務者のほか、被相続人に対して何らかの請求権をもつ者が該当すると考えられています。特別縁故者として、相続財産の分与を請求しようとする者も、該当すると考えられています (昭41.8.4家二111号最高裁家庭局長事務取扱回答)。

(b)時効の停止

相続財産管理人が選任された場合、その選任の時点から6か月間は相続財産に対する時効は完成せず、時効は停止します。
時効完成後に管理人が選任されたときにも同様であると考えられており、相続財産である不動産を10年間所有の意思をもって平穏かつ公然、善意無過失で占有したとしても、相続財産管理人の選任までは取得時効の完成はあり得ず、管理人の選任後6か月を経過したときに、時効が完成するとした判例があります (最判昭35.9.2民集14巻11号2094頁)。

(c)管理人の立場

1)管理人の地位

相続財産管理人の法律上の地位は、相続財産法人の代表者であると解されています。すなわち、不在者の相続財産に関する訴訟の当事者適格があるのは相続財産法人であり、相続財産管理人個人ではありません。
例えば、抵当権者が抵当権の実行をする際、相続財産管理人の選任を申立てますが、相手方は相続財産法人であって、管理人はその代表者となります。
なお、管理人選任後に相続人が現われ、相続財産法人が存立しなかったものとみなされる場合には、管理人は遡及的に相続人の法定代理人になるものと解されています。

2)管理人の権限

財産管理人は相続財産に関して、保存行為、管理行為を行う権限を有し、その権限を超える行為は、監督家庭裁判所の許可を得てすることができます。
家庭裁判所の許可を得ないでできる行為としては、被相続人が生前にした不動産売却による所有権移転登記手続に協力し、あるいは手続の実行として相続財産を売却する行為、被相続人の書面によらない贈与の取消、相手方の提起した訴えないし上訴に対して、相続財産管理人がする訴訟行為などがあります。
相続財産管理人が訴えを提起する場合、実務では、敗訴したときに相続財産管理人の責任が生ずることへの配慮もあって、家庭裁判所の許可を必要とするとの運用がされています。
相続財産管理人は、その権限の行使に関し、善良な管理者の注意を以て相続財産を管理する義務を負いますし、許可が必要なのに許可を得ないでしなした場合は無権代理人の責任を負います。

3)管理人のなすべきこと

相続財産管理人は、就任後できるだけ早く記録を閲覧して、事件の概要を把握し、相続財産の現状を調査します。そのうえで、財産目録を作成して家庭裁判所に提出しなければなりません。
相続財産管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、相続財産の状況を報告しなければなりません。
相続財産管理人は、すべての相続債権者及び受遺者に対して、債権申出の公告をする必要があり、申出期間経過後に、限定承認における清算手続に準じて清算を実行します。

2016/04/20 | 自由が丘税理士法人の気になるブログ..

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