分離課税の譲渡所得

分離課税

不動産を売却した場合でも、原則として確定申告をする必要があります。

ただし、給与として受け取った所得や、事業で稼いだ収入、不動産の家賃収入の所得とは、別の申告書で税額計算する必要があります。

ここでは分離課税の譲渡所得情報についてご紹介させていただきます。

1 .分離課税とは

不動産を売却した場合でも、原則として確定申告をする必要があります。ただし、給与として受け取った所得や、事業で稼いだ収入、不動産の家賃収入の所得とは、別の申告書で税額計算する必要があります。このような不動産の売買取引を一般の所得と分けて申告する方法を分離課税といいます。給与所得、事業所得や不動産所得は、合算して税額を計算する方法を、総合課税と言います。不動産や株式の売却益は非常に大きな金額になることもあるので、累進課税である他の所得とは切り離して計算することで、多額の税金を支払わないようにしています。

2.申告分離課税と源泉分離課税

申告分離課税の対象となる場合は、確定申告が必要です。一方、源泉分離課税は、支払われるときに源泉所得税が控除されているので、確定申告は不要で、納付手続きも不要です。

種類 対象となるもの
申告分離課税 ・株式の譲渡所得など(特定口座、少額投資非課税制度(NISA)など確定申告が不要なものもある)
・不動産売却による譲渡所得
・先物取引による雑所得
・山林所得
源泉分離課税 ・株式譲渡所得で特定口座にしている場合
・上場会社の配当所得は、総合課税か申告分離課税かを選択できます。

3.申告分離課税の所得税の計算方法

(1)株式譲渡所得

譲渡収入から取得費と譲渡費用を差し引いたものが譲渡所得となり、他の所得とは分けて税金の計算をする申告分離課税となります。

また、FX取引のような先物取引の場合は、その取引にかかる事業所得の金額、譲渡所得の金額、そして雑所得の金額を合算したものを雑所得等の金額とします。FX取引は、別途申告書の書類を作成する必要があります。

所得×15%を所得税、所得×5%を地方税、さらに平成25年から平成49年までは所得税額の2.1%が復興特別所得税として納める必要があります。

(2)土地や建物の譲渡による譲渡所得

土地や建物の譲渡所得に対する税金は、売った土地や建物の所有期間が、売った年の1月1日現在で5年を超えるかどうかで判断して、「長期譲渡所得」か「短期譲渡所得」に分けて異なる税率で計算します。

例えば、令和3年中に売った場合は、その土地や建物の取得が平成27年12月31日以前であれば「長期譲渡所得」に、平成28年1月1日以後であれば「短期譲渡所得」になります。

分離課税の譲渡所得の課税対象には、土地のほか、借地権や耕作権など土地の上に存する権利を含みます。また、海外に所在する土地や建物も含みます。 

譲渡所得金額は、次の算式により計算します。

譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

譲渡所得金額に税率を乗じれば、税額が計算されます。

所得税の申告書では、所得税の他に復興所得税をまとめて、申告書を提出し、納付することになります。住民税は、所得税の申告書提出後に各市町村から納付書が届いて、納付します。

種類 対象となるもの
取得費 売った土地や建物を買い入れたときの購入代金(建物は減価償却費相当額を控除します。)や仲介手数料などの合計額です。
実際の取得費が分からない場合は、譲渡価額の5%相当額を取得費として計算することができます
譲渡費用 1仲介手数料
2測量費など土地や建物を売るために直接要した費用
3貸家の売却に際して支払った立退料
4建物を取り壊して土地を売ったときの取壊し費用など
特別控除額 自宅を打った場合:控除最大3千万
詳しくは、4.で説明します。

長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率

区分 所得税 復興所得税 住民税 合計
長期譲渡所得 15% 0.315% 5% 20.315%
短期譲渡所得 30% 0.63% 9% 39.63%

4.譲渡所得の各種特例

マイホームを売却したりする場合には、3千万円の特別控除があったりするので、税金がゼロになったケースを実際申告した場合もありますので、各種特例をピックアップします。

居住していた土地を売却する場合
  ケース 利用できる税金控除・特例
居住用として所有していた土地を、建物を解体して売った場合

居住用財産の3,000万円控除
譲渡所得から最大3,000万円控除できる。

土地及び取り壊した住宅の所有期間が10年を超える場合

10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
一定の条件で税金が低くなる。

マイホームを買い換えた場合

特定の居住用財産の買換え特例
課税の繰延処理ができる。

相続した実家などを売却した時に使える税金控除
親などが住んでいた住宅を相続し、売却した場合

相続空き家の3,000万円控除
譲渡所得から3,000万円控除できる。

土地売却で譲渡損失が生じたときに使える税金控除
住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じた場合

特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
他の所得と損益通算できる。

マイホームを買い換えて譲渡損失が生じた場合

マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
他の所得と損益通算できる。

 

① 住用として所有していた土地を、建物を解体して売った場合

3,000万円控除の特例を使用する場合には、土地を売却した翌年の確定申告の期間までに申告しなければ、特例の適用は受けられなくなりますので、忘れないようにしましょう。その前に、まず当該特例を利用できるかを確認する必要があります。

 

要件

自分が住んでいる家屋または、家屋+土地を売った場合

以前に住んでいた場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

家屋を取り壊した場合は、家屋を取り壊した日から1年以内に土地譲渡契約を締結し、かつ、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、貸駐車場などの用途で使っていないこと

売った相手が親子や夫婦など近親者でないこと

 

当該特例は、以下のような家屋には適用されません。

この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋

居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋

別荘などのように主として趣味、娯楽又は保養のために所有する家屋

 

② 土地及び取り壊した住宅の所有期間が10年を超える場合

住宅が取り壊されて売却した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えている場合には、自分の住んでいたマイホームを売って一定の要件を満たすときは、長期譲渡所得(所有期間5年超)の税額よりもさらに低い税率で計算できます。

10年超所有で軽減税率の特例を適用できる場合

 

所得税

復興特別所得税

住民税

6千万円以下の部分

10%

0.21%

4%

6千万円超の部分

15%

0.315%

5%

「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」を適用するためには以下のような要件を満たしている必要があります。当該要件は、3,000万円特別控除の要件と同じです。この「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」は、「居住用財産の3000万円特別控除」と併用可能です。10年を超える期間住んでいた土地を売る場合は、両方の特例が適用できます。

③ マイホームを買い換えた場合

住んでいたマイホームを令和3年12月31日までに売って、代わりのマイホームに買い換えた時に、その譲渡益を将来に繰り延べることができる特例です。

つまり、新しいマイホームを売却する時まで当該譲渡益に対する税金を支払わないですみます。
以下の要件を満たせば、課税の繰延が可能となります。

 

特定の居住用財産の買換え特例の要件

自分が住んでいる家屋または、家屋+土地を売った場合(居住期間・所有期間ともに10年超)

以前に住んでいた場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

売却代金が1億円以下であること

家屋を取り壊した場合は、家屋を取り壊した日から1年以内に土地譲渡契約を締結し、かつ、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、貸駐車場などの用途で使っていないこと

売った相手が親子や夫婦など近親者でないこと

買い換える建物の床面積は50㎡以上で、土地面積は500㎡以下であること

マイホームを売った年の前年から翌年までの3年の間にマイホームを買い換えること

買い換えるマイホームが中古住宅の場合は、取得の日以前25年以内に建築されているか、一定の耐震基準を満たしていること

 

④ 親などが住んでいた住宅を相続し、売却した場合

相続または遺贈により、被相続人(親など)が住んでいた家を取得した場合、一定の要件を満たせば譲渡所得の金額から3,000万円控除できます。これを、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。空き家対策の特別控除なので、他の控除よりも要件が厳しいです。

これもマイホーム売却の特別控除と同じように、土地を売却した翌年の確定申告の期間までに申告しなければ、特例の適用は受けられなくなりますので、忘れないようにしましょう。

 

 

被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の要件

親などの被相続人が住んでいた家または家+土地を相続し、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売却した

相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

売却代金が1億円以下であること

売った相手が親子や夫婦など近親者でないこと

家屋は、昭和56年5月31日以前に建築されたこと

家屋は、一定の耐震基準を満たしていること

家屋は、相続から譲渡までの間に、事業や貸付や居住いずれの用途でも用いられていないこと

相続から譲渡までの間に、事業や貸付や居住いずれの用途でも用いられていないこと

⑤ 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じた場合

⑥ マイホームを買い換えて譲渡損失が生じた場合

⑤と⑥は、適用要件は異なりますが、売った年の1月1日現在で、所有期間が5年を超えるマイホームの譲渡損失が生じた場合には、その譲渡損失の金額をその年の他の所得と損益通算することができ、その年で通算しきれなかった譲渡損失の金額がある場合には、その年の翌年以後3年内の各年分(合計所得金額が3,000万円を超える年分を除きます。)の所得から繰越控除をすることができるということが共通しているので、一緒に説明いたします。

特例の要件の簡単な違いを表で説明すると、以下のようになります。

 

⑤の場合

⑥の場合

売ったマイホームの所有期間

売った年の1月1日現在で5年を超えるもの

住宅ローン残高

必要

不要

新しいマイホームの取得

不要

必要

住宅ローン残高

不要

必要

繰越控除する年の合計所得

3,000万円以下であること

詳しくは以下で説明いたします。

⑤ 住宅ローンが残っているマイホームを売却した場合

 

要件

自分が住んでいるマイホームを、親子や夫婦など特別な関係のない人に譲渡すること。

以前に住んでいたマイホームの場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。

取り壊された家屋及びその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が5年を超えるものであること。

その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。

譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超えるマイホーム(譲渡資産)で日本国内にあるものの譲渡であること。

譲渡したマイホームの売買契約日の前日において、そのマイホームに係る償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること。

マイホームの譲渡価額が住宅ローンの残高を下回っていること。

 

⑤の申告時に必要となる手続き

(1)損益通算の場合

 

損益通算の場合、以下の書類を添付して提出する必要があります。

「特定居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)」

「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書(租税特別措置法第41条の5の2用)」

売却したマイホームの所有期間が5年超だと分かる書類(登記事項証明書や売買契約書の写しなど)

「譲渡資産に係る住宅借入金等の残高証明書」(売買契約日の前日のもの)

(2)繰越控除の場合

(1)と同じ書類を添付して、提出する必要があります。

損益通算の適用を受けた年分の翌年分から繰越控除を適用する年分まで連続して確定申告書(損失申告用)を提出すること。

 

⑥マイホームを買い換えた場合

 

要件

自分が住んでいるマイホームを、親子や夫婦など特別な関係のない人に譲渡すること。

以前に住んでいたマイホームの場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。

取り壊された家屋及びその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が5年を超えるものであること。

その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。

譲渡の年の前年の1月1日から売却の年の翌年12月31日までの間に日本国内にある資産(新居宅)で家屋の床面積が50平方メートル以上であるものを取得すること。

買換資産(新居宅)を取得した年の12月31日において買換資産について償還期間10年以上の住宅ローンを有すること。

買換資産(新居宅)を取得した年の翌年12月31日までの間に居住の用に供すること又は供する見込みであること。

 

⑥の申告時に必要となる手続き

(1)損益通算の場合

 

損益通算の場合、以下の書類を添付して提出する必要があります。

「居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)」

「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書(租税特別措置法第41条の5用)」

旧居宅の所有期間が5年を超えること及び面積を明らかにするもの(登記事項証明書や売買契約書の写しなど)

新居宅の購入した年月日、家屋の床面積を明らかにするもの(登記事項証明書や売買契約書の写しなど)

年末における住宅借入金等の残高証明書

確定申告書の提出の日までに買い換えた資産に住んでいない場合には、その旨及び住まいとして使用を開始する予定年月日その他の事項を記載したもの

(2)繰越控除の場合

(1)と同じ書類を添付して、提出する必要があります

損益通算の適用を受けた年分の翌年分から繰越控除を適用する年分まで連続して確定申告書(損失申告用)を提出すること。

5.税理士に依頼した場合の相場

不動産の譲渡所得の確定申告は、複雑な取引が多いため報酬80,000円からお受けいたします。
まずご相談ください。

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この記事を書いた人

重松 輝彦

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公認会計士試験合格後、中央青山監査法人(現新日本監査法人)入所後、サマンサタバサジャパンリミティッド(㈱)、あずさ監査法人を経て、2012年 重松公認会計士事務所を開業。現在は、自由が丘税理士法人設立して、さいたま市と世田谷区に拠点を構え、記帳代行会社として、新潟県佐渡市に佐渡パートナーズ合同会社を設立する。

2021.12.23│taneC952

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